アフリカのスタートアップとカルチャーを発信

11 Jun 2017
Startup

「Fintech先進地域アフリカ」の背景と歴史(アフリカフィンテック入門①)

「アフリカフィンテック入門」は、アフリカのフィンテックに関する現状と今後を2記事構成で考察している。後編は、「アフリカにおける次世代のFinTech(アフリカフィンテック入門②)」をご覧下さい。

 


 

2008年、バークレー、カリフォルニア。
進歩主義と社会民主主義的思想が根付くこの街で、私は短大に通っていた。
街や大学では、世界恐慌の再来とも言われた金融危機が人々の話題をさらっていた。街行くデモが叫喚するキャッチーなスローガンの数々は、今も耳に残っている。

しかし、そんな国内の怒号と熱狂を他所に、私の関心は別の方向を向いていた。
アフリカだった。

当時、開発経済専攻を志していた私は、インターネットを用いたマイクロファイナンス(返済率を向上する仕組みが施された小口融資)に心を奪われていた。

特に、PayPalの黎明期を支えたPremal Shah、LinkedIn創業者のRied Hoffmanも関わるNPO「Kiva」は、先進国のドナーとアフリカの資金需要を現在のクラウドファンディングに似た枠組みで繋ぐマイクロファイナンスプラットフォームとして成功を収めていた。

当時まだネットバンキングに触れたばかりの私は、その仕組みがアフリカに届き、多かれ少なかれインパクトを与えているという事実に驚きを隠し得なかった。

Kivaに始まった私の関心は、Kivaが抱える課題の解決に挑むZidisha(Y Combinator W14)、当時まだ先進国でも普及していなかったモバイルペイメントをケニアとタンザニアで普及させた「M-Pesa」、ひいては途上国における「Fintech(フィンテック)」全体へと広がっていった。

そして今、スマホの普及と共に、アフリカのFintechはまた一つ大きな局面を迎え、私の心を踊らせている。生活のインフラとして、個人の生活、国々の成長を先導する可能性を持つこのフィールドについて、少しばかり紹介したい。

 

必要は発明の母

 

 

アフリカフィンテックの今に触れる前に、少し背景を紹介しておきたい。

まず、アフリカに人口は何人いると思っているの?

12億。
あと4,000万人。

内、公式な銀行へのアクセスを持つのは、人口の上位20~25%に過ぎない。

他の代替品が無ければ、我々が日々利用する銀行口座、ATM、融資などのサービスに全くアクセス出来ないことになる。

銀行口座が無ければ、キャッシュを肌身離さず持ち歩くか、へそくりのように家の隅に隠すか、使ってしまうしかない。しかし、ここはアフリカだ。強盗の可能性は日本の比ではない。特に低所得層が暮らす地域の住宅品質は決して良くなく、土に現金を埋めたものの、虫に喰われてなくなったなんて話もある。

たとえ口座があっても、交通インフラが整備されてない多くの地域において、銀行に足を運ぶこと自体が大きなコストになる。当然信用履歴もないので、事業を始めたり、身内の不幸など急な資金需要が起きた時には、法外な利率を請求する高利貸しくらいしか当てがないのだ。

これらは金融サービスへのアクセスを奪われるという意味の、ほんの一部のスナップショットでしかない。しかし、これを見ただけでも、そこに「必要」というイノベーションの源泉の存在を確認出来る。

 

ガラケーとM-Pesa

 

そしてそこに訪れたのが、携帯電話、いわゆるガラケーの普及だ。

2000年当時、サブサハラアフリカの固定電話加入者数は、人口100万人程度のニューヨーク・マンハッタンのそれよりも少なかった。しかし、2000年以降の携帯電話普及に伴い、携帯電話加入者数は、現在4億UUに到達している(携帯電話料金の節約を主な理由に複数のSIM契約を行う傾向があるため、SIM数で言えばこの2倍は下らない)。

この飛躍を説明する要因の一つは、固定電話と携帯電話インフラの違いだ。
各回線を線で繋ぐ必要がある固定電話に対して、携帯電話は基地局を建てるだけで通信環境を構築出来る。莫大な土地に人口が分散するアフリカにとっては、後者の方が効率が極めて高い。
また、既に携帯電話が普及していた先進国の型落ちモデルが安価で流入したこと、人口の大多数を占める低所得層に通信サービスが提供されていなかったことも大きかった。

NOKIAを中心とした、SMSと電話しか出来ない携帯電話は、スマホが先進国に与えた影響を優に超えるインパクトがあったと言って過言ではない。例えば携帯電話以前では不可能だったのが、市場の需給状況の把握である。市場の様子を把握できない農家は、需要に合わせた適切な量を供給出来ず、結果として機会損失を被っていた。携帯電話はこの情報の非対称性及び市場の歪みを補正し、結果的に、消費者を含む全てのステークホルダーにとってWin-winの結果をもたらした。
M-Pesaの存在も忘れてはいけない。
現地モバイル大手サファリコムとボーダコムにより、2007年にケニアとタンザニアで展開されたM-Pesaは、金融サービスにアクセス出来ない低所得層の生活を一変させた。
M-Pesaは、キャッシュのデポジットと送金を可能にするガラケーベースのサービスとして、ケニアとタンザニアでローンチされた。

ユーザーは、街中に設置された有人キヨスクで、自身のアカウントに紐づいたIDを伝え、送金に必要な分だけのキャッシュを支払えば、自身のアカウントに指定の金額がデポジットされる。支払先のIDが分かれば、ガラケー1つで送金も可能だ。

送金手数料が既存送金サービスに比べて割安で、銀行の存在も必要としないM-Pesaは、金融サービスにアクセス出来ない低所得層のニーズを捉え、彼らの生活を一変させた。都市に住む出稼ぎ労働者が地方の家族に高い手数料を払って送金する必要も、キャッシュにしがみついて生活する必要も、なくなったのだ。

2016年、M-Pesaはおおよそ10ヶ国で展開され、アクティブユーザー数は3,000万に登る。1秒間に500を超えるトランザクション回数を誇り、年間トランザクション総量は3兆円を下らない。更に、拡張機能やM-PesaのAPIをベースにしたサービスも各種展開されており、マイクロファイナンス、公共料金の支払いなど、プラットフォーム全体を通じて人々の生活をより便利に変えている。2014年には、アフリカ諸国における格安スマホの台頭に合わせて、Android版の提供も開始された。

繰り返すが、M-Pesaがローンチされたのは2007年である。未だモバイルマネーが浸透していない日本を含む先進国を他所に、10年の間インフラとして人々の生活を支えてきたのだ。
信用の化身であるお金に関する概念や慣習を変えることは決して容易ではない。しかし、一度電子化の壁を超えた時、そしてさらなる技術革新がその動きを後押しした時、信用に基づいた社会は大きくその在り方を変える。

そして今、スマホの台頭と通信環境の向上によって、ケニアやナイジェリアを中心にアフリカは正に大きな変化を目撃しようとしている。
−「アフリカにおける次世代のFinTech(アフリカフィンテック入門②)」に続く

 

参考:

Mobile Telephony in Africa, Wikipedia

M-Pesa global transactions hit six billion in 2016, Business Daily

Kenyans transacted Sh3 trillion via mobile phones last year, Daily Nation