アフリカにおける次世代のフィンテック(アフリカフィンテック入門②)
先日投稿した「『Fintech先進地域アフリカ』の背景と歴史(アフリカフィンテック入門①)」では、アフリカでフィンテック1.0とも呼べるM-Pesaが栄えた背景を説明した。
本章では、前章に続いて、外部環境の変化に伴ったアフリカにおける次世代のフィンテックについてご紹介したい。
アフリカにおける次世代のフィンテック
過去数年、スマホはアフリカでも目覚ましく存在感を高めてきた。スマートフォン普及率は、2016年時点で40%に迫る勢いだ。
現在はテスト段階だが、Facebookを筆頭に、衛生やドローンを駆使してより広範囲に、より高品質な通信環境を提供する動きが、今後活発になると予測されている(ネットニュートラリティの話は置いておこう)。
更に、ブロックチェーンを中心に、アフリカや途上国のコンテクストに適合しやすい技術革新がより進むのもこの先数年であろう。上記を踏まえた上で、今後発展が期待されるフィンテック分野をいくつか紹介したい。
海外送金
地元を離れ、海外で活躍する移民がアフリカ大陸に国際送金する金額は年間$35.2Bに登り、これは上昇傾向にある。海外送金には手数料がつきものだが、海外送金のコストは、我々にとってはもちろん、可処分所得の低い人々にとってはなおの事大きな負担だ。
ほんの数年前まではWestern Unionなどがその主なツールだったが、スマホとネットが普及した今、手数料で荒稼ぎするビジネスは成立しなくなって来ている。
2010年、ロンドン留学時代、創業者Ismail Ahmed氏がソマリアの実家に送金する際に経験した困難から生まれた海外送金サービスが「WorldRemit」だ。Accel Partnersからも出資を受けるこのサービスは、低コスト、セキュリティ、迅速性などが評価され、アフリカ主要国のみならず、世界50ヶ国で活用されている。
近年では英国スタートアップ「TransferWise」が注目される分野であり、競合環境は厳しくなっているのも事実である(メリットデメリットは、送金額、送金先などによるため、一概には言えない)。
クラウドファンディング
VCや銀行など、特に若いアントレプレナーに対するお金の出し手がまだまだ少ない。
先日Samurai Incubate主催のルワンダに関するイベントに参加した際にも、これだけICT分野で注目されるルワンダにもまだVCは存在せず、現段階では失敗覚悟で大きな先行者利益を狙いたい人だけが飛び込むべき市場という印象を受けた。そうした調達環境故に、クラウドファンディングの意義は大きい。
日本でも、消費者製品のローンチチャネルとして近年発展が著しいクラウドファンディングだが、先進国の価値観では小口の出資が、アフリカではより大きなインパクトをもたらす可能性がある。アフリカ全土においては、2015年時点で57以上のクラウドファンディングプラットフォームが立ち上がっており、$130Mの資金を集めているいるという。寄付型、リワード型、株式型、ローン型など、多様性も既に生まれている。プロジェクト数ベースでいうと、圧倒的にローン型が多いのが特徴的だ。
当然まだ黎明期であり、現在は南アフリカ、ナイジェリアなど一部に集中しているが、今後はアフリカ全土で拡大が期待できる。個人的には株式型の可能性を注視しているが、まだ法規制が整っていないため、早急な法改正が課題である。
特徴的なスタートアップとして、M-Changaは、SMSを利用したクラウドファンディングを提供している(ケニア限定)。
ブロックチェーン
仮想通貨
最もよく知られているのは、ビットコインを含む仮想通貨の可能性だろう。
通貨の変動が激しく、過剰インフレリスクの大きなアフリカ諸国では、安心して将来のための貯蓄も出来ない。ビットコインもまだまだ投機的な動きにより変動が大きいというが、数十~数百%単位でインフレを起こす現地通貨を考えると、今後ビットコイン及び仮想通貨が安全通貨として受け入れられる可能性は高い。また、海外送金手数料が大幅に減ることで、地域経済間での活動が活発になる。
必要性だけで言えばアフリカは最も仮想通貨が普及する意義の大きな地域であり、今後の課題は金融に関する教育と法整備だろう。
注目プレイヤーとしては、ビットコインによるB2B決済とFXサービスを提供するBitPesa(ナイロビ・ケニア)、シンガポールに本拠を構えつつ、南アフリカにも拠点を置く仮想通貨ウォレットのLunoなどが挙げられる。後者は2015年、Naspersをリードインベスターに、シリーズAで$4Mを調達している。
スマートコントラクト
スマートコントラクトは、ブロックチェーン技術を用いた、公正な契約を取り交す契約手法だ。
全ての契約情報はブロックチェーン上に記録され、仲介人も挟む必要がないことから、安く、早く、そしてより安全に契約を締結できる。リーガルインフラが整っておらず、腐敗や頼りにならない行政機関が蔓延するアフリカ諸国、ひいては途上国でこそ活躍が期待できる。
初めてSmart contractの話を聞いた時、Hernando de Soto著『The Mystery of Capital』を思い出した。法の秩序の下に安全な取引が出来れば、途上国に眠る財産の可視化、数値化に繋がり、ひいては経済発展に繋がるという内容である。またいつか紹介したい。
Initial Coin Offering
暗号通貨プロジェクトの資金調達方法として注目されるICO(Initial Coin Offering)。
IPO(Initial Public Offering, 新規上場株式)になぞらえた、比較的新しい概念である。
ブロックチェーンをインフラとする企業は、ICOを通じて、現金やbitcoinと引き換えに新しい仮想通貨を売り出し、プロジェクトのプラットフォーム上で使えるようにする。出資者は、IPOと同様に、経営参画や利益の分配権利も受けられる。Exitを待つ必要がなく、セカンダリー市場で取引が出来ることから、流動性も確保出来る、新しい資金調達方法だ。
過去の事例を見ると、約$18MをICOで調達したEtheriumのような好例もあれば、$160Mを調達した直後に$50MをハッキングされたThe DAOの例もある。まだまだ未知数かつ長期的な話ではあるが、既存のVCの枠組みでは支えられなかった、アフリカ地域のスタートアップを支援する枠組みになる日が来るかもしれない。
Microfinance/クレジットスコアリング
アフリカに置けるマイクロファイナンスの歴史は長い。インターネットを取り入れた仕組みも、Kivaの普及により2000年代に拡大した。ZidishaはYCのNPO部門(W14)にも採択されている。Kivaが資金をプールして分配する仕組みを当初採用したのに対して、Zidishaは個人と個人をつなぐことを一つのポリシーとしている。
データ量とデータ解析技術が向上した昨今では、毎月の携帯電話料金、利用データ、ソーシャルメディア情報などの情報から、個人のクレジットスコアを編み出すスタートアップも登場している。スマホベースのTalaは東アフリカでクレジットスコアリングサービスを展開しており、M-Pesaのプラットフォームに存在するM-Shwariも、同様の取り組みを行っている。
M-Pesaプラットフォーム
モバイルウォレットM-Pesaをプラットフォームに、生活を豊かに変えるサービスが広がっている。
個人間送金を主軸に普及したモバイルウォレットM-Pesaだが、元はと言えば、マイクロファイナンスの支払いを容易にするために考えられたサービスであり、従来のビジョンが実現されてきたと言えるだろう。
例えばM-KESHOは、銀行とM-Pesa提供元のSafaricomによる共同事業であり、M-Pesa利用者にローンや保険と言ったサービスを提供している。前述の通り、M-Shwariは、携帯の情報を基にしたクレジットスコアリングとローンも提供している。
太陽光発電キットを提供するM-KOPAは、M-Pesaアカウントとの連動によって分割払いを実現し、ケニアの家庭に明かりを灯している。支払いが確実に行われているかをトラッキングすれば、クレジットスコアリングも可能になり、購入者はさらなる将来への投資が可能になる。
M-Pesaが生み出したインパクトは、金融分野に止まらなず、様々な生活の側面に前向きな変化を与えている。
ベーシックインカム
ビジネスだけでは、アフリカを支えられない。
飢餓、貧困、疫病、公共教育など、公共や非営利の介入なしに解決できない課題はまだまだ多く存在する。
これらの課題に対して、近年しばしば話題に上がるのが、ベーシックインカムの概念だ。個人の資産や職の有無などにかかわらず、全ての国民に、一定金額を支給する経済政策である。最近では、スイスがベーシックインカム導入の国民投票を行ったり(結果、否決)、YCがカリフォルニアでベーシックインカムの妥当性を検証することでも話題になった。
東アフリカにおけるベーシックインカムの試験的導入を推進するNPO「GiveDirectly」は、ベーシックインカムに対して、受給者が40-49%のリターンを創出した研究結果(ウガンダ)や、低出生体重児の割合が15%減少したデータ(ウルグアイ)など、その効果を伝えている。しかし、彼ら自身が認めている通り、ベーシックインカムはまだその妥当性の検証段階にあり、その是非を問うには時間がかかるだろう。
ラストフロンティアを持続可能な形で開拓したいのであれば、この可能性を検証するための資金を提供することが、今我々に今出来ることなのかもしれない。
あとがき
こうしてアフリカFintechの現状を見てみると、他地域と比べて取り立てて進んでいるということはない。しかし、必要というイノベーションの源泉は其処彼処に見受けられ、今後の大きな可能性は見てとることが出来るのではないか。
更に、先にも述べたが、信用の化身であるお金の概念は、変えるのが非常に難しい。モバイルマネーが生活の一部と化しているアフリカ諸国は、既にフィンテック発展の礎を築いていると言っても過言ではない。
資金調達や通信環境など、課題は決して少なくないが、フィンテック技術やビジネスモデルの革新を通じてこれらの課題を攻略し、新たな革新を生む出すサイクルを近い将来見ることが出来るかもしれない。
あとがきのあとがき
大学時代、国連か世界銀行に進むキャリアを夢見ていた。
しかし、当時出会ったKiva、Zidisha、M-Pesaといったサービスに魅せられて、(それだけが理由ではないのだが、)気づけばIT、インターネット業界に足を踏み入れていた。
紆余曲折はあったが、今は「空飛ぶクルマ」や「培養食肉」といった、インフラ不足や持続可能な農業といったアフリカ諸国の課題に対して、一つの解決策となりうるプロジェクトに関わることが出来ている。当時夢見たキャリアとはまるで異なるが、どのプロジェクトもとても有意義なものである。
これらについても、また近く紹介出来たら嬉しい。
−前章「『Fintech先進地域アフリカ』の背景と歴史(アフリカフィンテック入門①)」はこちら
参考
The Mobile Economy Africa 2016, GSMA
$127m raised for African crowdfunding projects in 2015, Disrupt Africa
CROWDFUNDING IN AFRICA, Afrikstart