アフリカのスタートアップとカルチャーを発信

16 Jun 2018
Startup

If you can’t measure it, you can’t improve it

ポーターより、普通に、ドラッカーが好き。

 

経営学者ピーター・ドラッカー。

『もしドラ』や名著『マネジメント』などでご存知の方も多いでしょう。

数年前までビジネスや経営にはとても疎かった私ですが、経営や組織を考える楽しさと意義を彼の数々の本から教わりました。

 

そして本記事のタイトルにある”If you can’t measure it, you can’t improve it”も、ピーター・ドラッカー氏の数ある名言の一つです。

まあ実際は言ってないらしいのですが、彼の言葉として知られています。

 

計測出来ないなら、改善することも出来ない。

 

定量的計測及び分析の重要性を諭すこの言葉は、明示暗示は別にして、継続的に成長する企業のカルチャーに必ずと言っていいほど刻まれています。

特に、スタートアップを中心に見られるグロースハッカーやデータサイエンティストなどの比較的新しい職種も、この考えに基づいていると言えるでしょう。外部の投資家の立場に立っても、定量的に業績や成長性を判断出来ることが、意思決定の上で非常に重要です。

 

途上地域におけるデータ活用

 

前置きが長くなりましたが、これはアフリカ諸国を含む、国家という組織の観点からも同じことが言えるでしょう。

例えば先進国には、5年や10年単位で行われる国勢調査が存在します。省庁単位でも様々な調査が行われています。基本的な国民の統計情報を収集し、これを政府機関、企業、学会に提供することで、国民に関する洞察を深め、適切な政策に結び付けることが目的です。不確定要素が減少すれば、外部からの投資も活発になります。

各国のデータの収集と分析には、国連や世銀と言った国際機関も積極的です。国外マーケットの参入や地域研究を試みる際に、まずはWorld Bank Indicatorなどの統計を見る方も多いのではないでしょうか。

数年前には、国連のデータ活用専門機関Global Pulseも誕生しており、ウガンダのカンパラにもラボを構えています。

上記から、世界ないし国家を「改善」する上で、データの収集と分析が果たす役割を伺えますが、これらの整理されたデータは、世界各国満遍なく存在するわけではありません。

以下のグラフは、157の発展途上国及び地域が、全55の基礎的開発指標の内、各計測期間においてどれだけの指標をトラッキング出来たかを示しています。

参照: “A World That Counts”, UN

 

全体を見ると、全55の基礎的開発指標の内、70%、つまり38を超える指標が計測された期間がないことが分かります。

個別のソースを見ると、推測と現地政府による調査結果が多くの割合を占めていますが、後者だけを見ると、指標全体の20~30%しか計測出来ていないことが分かります。

サブサハラアフリカにおける非公式経済(Informal Economy=政府機関による監視、規制、課税の影響下にない経済活動。地下経済などの呼称でも知られる。)の平均的な規模は、実際に記録されているGDPの41%に登るとの数字もILO(国際労働機関)によって算出されています。

大学時代、アフリカ諸国の通信環境に関するデータを研究目的で収集する際にも、非常に苦労した覚えがあります。

 

なぜ、これほどまでに大きなギャップが存在するのでしょうか。

まず第一に、国に関するデータを収集するには相当なお金と労力がかかります。

実際に、日本で行われた平成27年国勢調査は、672億円の予算要求額、70万人の調査員を要しました。
特に、広大な土地に住民が点在し、交通インフラの整っていないアフリカ諸国において、必要とされる労力の大きさは想像に難くないでしょう。

さらなる課題は、インセンティブデザインです。

人間は、得てして短期的に手に入るインセンティブに飛びつきやすい動物です。反対に、より大きな効果を得られると分かっていても、効果を得るまでの時間軸の長さがモチベーションを削いでしまう傾向にあります。

国家や都市レベルのデータを収集し、実生活へ反映するまでには多大な時間がかかり、国民の支持に大きな影響を与える訳でもないことから、政策立案者にとって決して魅力的とは言えません。

国民にとってみれば、効果を実感できるまでの時間軸はもちろん、どんな効果があるか大半の人が分からないのが実情であり、協力を得るのも難しいでしょう。

 

データ活用を目的としたインセンティブデザイン

 

お金と労力に関してはインターネットを用いることで節約出来ますが、対面なしによって回答率が落ちたり、精度が落ちてしまっては元も子もありません。正しいインセンティブデザインを行い、無駄な出費と工数を抑えながらも効果を最大化する仕組みが必要です。

 

以下は、一般的な組織が正しくインセンティブデザインを行う上で欠かせないいくつかの要素です:

  • インセンティブが、組織の目的達成に貢献する。また、その目的に関する構成員の理解を促進する。
  • 構成員にとって魅力的なインセンティブである。
  • 組織にとって無理なく提供可能なインセンティブである。
  • インセンティブは、構成員が「今まだ出来ていないこと」を奨励する。

 

これを国家に当てはめると、以下のようになります。

  • インセンティブが、国民の幸福、国家の繁栄に貢献する。また、その目的に関する国民の理解を促進する。
  • 国民にとって魅力的なインセンティブである。
  • 国家にとって無理なく提供可能なインセンティブである。
  • インセンティブは、国民が「今まだ出来ていないこと」を奨励する。

 

上記のインセンティブデザインを適切に実行し、国家としてデータ活用に成功したのが、台湾の「レシート宝くじ」です。

1951年、国の経済状況の把握、ひいては税の徴収に課題を抱えていた台湾の財務省は、その打開策として「レシート宝くじ」を考案しました。

各商店が発行するレシートに固有の番号を発行し、定期的に国がランダムで選出する当選番号を手にした当選者は、賞金を獲得出来るという仕組みです。

一見すると至極簡単な仕組みですが、レシート宝くじは企業や商店の帳簿活動を活発化させ、国家による経済状況の把握に貢献し、ひいては税収の拡大、公共投資の拡大、そして国民の幸せと国家の繁栄に貢献しました。

 

図解:台湾レシート宝くじの好循環

 

このレシート宝くじは現在に至るまで継続されており、2006年にはEコマースや電子決済を奨励し、紙のレシートを減らす目的にも応用されています。

インセンティブの時間軸を上手に調整した好例で、ビジネスのサービス設計としても非常に学びの多い一例です。

論文もいくつかあるので、興味のある方は是非ご覧ください。

The VAT lottery as a charitable lottery(PDF Download)

Public Goods Provision through Non-Distortionary Tax Lotteries(PDF Download)

 

あとがき

ドラッカーの名言から始まり、国家にとってのデータの重要性と活用の難しさ、インセンティブ設計を見てきました。

データ活用を目的としたインセンティブデザインの例として、政府による取り組みを紹介しましたが、スキームを工夫することで、民間やスタートアップ主体で同様の取り組みを実現することも可能でしょう。個人的にやって見たいことの一つです。

以上、アフリカの話はほとんど出ませんでしたが、途上地域全体の成長課題を、データ活用の観点から考察しました。

 

あとがきのあとがき

測れないけど改善出来るもの、測ったところで課題解決の緒にならないものって、実はあったり。やる気とかモチベーションとかがその類で、結局日々のコミュニケーションが大切なのでしょう。

あと、ポーターも、CSVの概念も、普通に大好きです。

 

 

時代に即した国勢調査の実施手法の在り方, 総務省